資料名短冊1 (『魚の鰭』掲載)
著者名三橋鷹女
出版者
作成年 1939

書き下し文

秋風や 水よりあはき 魚のひれ

解題

 第2句集『魚の鰭』(甲鳥書林 1941(昭和16)年1月15日刊)所収。句集名の典拠となった句である。1939(昭和14)年の作。『魚の鰭』では「秋風や水より淡き魚のひれ」の表記になっている。

 秋風がそうそうと吹きわたる中、澄明な水中を淡い鰭を繊細に動かしながら静かに泳いでいる魚のイメージが浮かんでくる。三好達治の詩集『測量船』(第一書房 1930(昭和5)年刊)の「乳母車」の有名な一連を思い浮かべる読者もいるだろう。

 母(はは)よ―

 淡(あは)くかなしきもののふるなり

 紫陽花(あぢさひ)いろのもののふるなり

 はてしなき並木(なみき)のかげを

 そうそうと風(かぜ)のふくなり

この句は「秋風」と「魚のひれ」という共に透きとおるように淡く、繊細で、ものさびしく、はかないイメージと情趣を持つものどうしを取り合わせて、そのイメージと情趣をいっそう高めている。「秋風」は爽涼な秋の季節感を伝えるよりは、日本人の伝統的な美意識によって、そうそうと吹くものさびしい情趣を伝えるもの。また、秋は大気がもっとも澄明なる季節で、「水の秋」という季語もあるように水も澄みわたる。その澄明な水の中を静かに泳ぐ魚の淡い影のような繊細な鰭。この句はそうした淡く、繊細で、ものはかない情趣によって、存在するもの、生あるもののものさびしさ、はかなさを読者の胸に伝えている。鷹女の鋭敏で繊細な詩情が発揮された句である。

この句は句集では「秋の風」の題の中の1句で、他に、

 秋といふも人間といふもうら淋し

 秋風の水面をゆくは魚の鰭か

などが詠まれている。

(川名大)

NSIN(書誌ID)DL20151000150
種別自筆の書
細目1枚物
ページ数
大きさ(縦×横)36.8cm×6.3cm
資料群名三橋鷹女資料
目録番号23
撮影年月日2014/01/17
掲載枚数 1 枚
備考全体に薄くヨゴレ 角破損
所蔵個人所蔵
分類 911.368
件名三橋鷹女
件名(成田)成田市-三橋鷹女
キーワード(成田)
地域コード9N
郷土分類 913.68