資料名短冊2 (『橅』掲載)
著者名三橋鷹女
出版者
作成年 1967

書き下し文

遥かな いななき一本の ぶなを抱き

解題

 第5句集『橅』(1970(昭和45)年)所収。1967(昭和42)年の作。初出は『俳句評論』第64号(1967(昭和42)年1月30日発行)で、「追悼篇」と題する28句中の1句。初出の表記は「はるかな嘶き一本の橅を抱き」となっており、句集でも同じ表記である。

 第3句集『白骨』(1952(昭和27)年)以後、三橋鷹女は、

 百日紅何年後は老婆たち

 薄氷へわが影ゆきて溺死せり

 枯羊歯を神かとおもふまでに瘦せ

など、老いや死や変身への意識や恐れをしばしば詠んできた。

 この「遥かないななき」の句は、それらとは対照的に、新たな生、新生を希求・願望する方向の句であろう。「一本のぶなを抱き」という意志的な行為によって橅の生と一体化した新生を希求する。すると、それと呼応して、たちまち遥か彼方に一頭の馬の嘶きがおこった、というのである。

 「追悼篇」28句中の中には、

 一木を抱いて啞蟬歓喜蟬

という句がある。また、『橅』以後の句の中にも、

 末は樹になりたい老人樹を抱き

という句がある。共に「遥かないななき」の句と類似の方向の句である。

 鷹女の自宅やその周辺には橅の木は見当らなかったが、鷹女は橅の木への執心が強かったようである。『橅』の「後記」には、

「豪雪が歇んだあとの橅の梢から、雫がとめどもなく落ち続ける―。

止んだ、と思ふと、またおもひ出した様にぽとりぽとりと落ち続ける―。

その雫の一粒一粒を拾ひ集めて一書と成し、「橅」と名付けました。」

とある。

(川名大)

NSIN(書誌ID)DL20151000160
種別自筆の書
細目1枚物
ページ数
大きさ(縦×横)36.2cm×6cm
資料群名三橋鷹女資料
目録番号24
撮影年月日2014/01/17
掲載枚数 1 枚
備考わずかにシミあり
所蔵個人所蔵
分類911.368
件名三橋鷹女
件名(成田)成田市-三橋鷹女
キーワード(成田)
地域コード9N
郷土分類913.68