講師 平川 南 氏(国立歴史民俗博物館館長)
開催日:2008(平成20)年11月01日(土)
講座の内容
今年度の市史講座は,成田市役所6階大会議室で,国立歴史民俗博物館館長の平川南氏を講師に迎え,お話いただきました。
平川氏の専攻は日本古代史で,漆紙文書・木簡・墨書土器などの出土文字資料により古代社会の研究をされています。その研究は文献史学の領域に止まらず,考古学・民俗学・文学・自然科学など総合学問としての歴史を目指されています。また,博物館や歴史学が地域に果たす役割,さらに歴史を探る大切さを,各所での講演活動等を通じ意欲的に発信しておられます。
講演は,今は内陸の成田周辺が古代は「香取の海」と呼ばれる巨大な内海に面した地域であったことを軸に,それにより非常に豊かな歴史が築き上げられたことが,さまざまな資料を基に解説されていきました。
まず,公津原古墳群と竜角寺古墳群の存在から,古墳時代のこの地域に二大勢力があったこと。その支配は後に印波と埴生に分かれ,初めは同等だったものがやがて埴生の力が増し,印波は西に新開地を求めていったこと…それらが発掘や文献資料などから明らかになっていく過程を順序良く説明してくださいました。
そして,この地域で東国最古の大量の文字瓦が出土していることや全国で極めて特殊な多文字の墨書土器が集中しているという説明に驚かされました。その理由は,天神を背景にした埴生に対し,印波が国神(土着神)と新しい信仰の形である墨書土器を利用し西に勢力を拡げていったためではないか,とのこと。それらの考察を裏付ける資料も,『日本霊異記』,大祓の祝詞,ヤマトタケル東征ルートなど多様なものが飛び出し,まさに歴史のミステリーがどのように紐解かれていくのかを垣間見るような講演でした。
最後に参加者からの質問にお答えいただき,講座は終了しました。その中で平川氏が「平成の大合併と言われていますが,地名は文化遺産。我々がわずかな資料を追いかけるときの手がかりでもある地名が失われることはその地域の歴史文化を失うことにもなるので,そういう面からも大事にしていただきたい」と述べられたことが印象深かったです。
当日は,213名もの方にご参加いただき,「大変興味深かった」等多くのご好評をいただきました。今回の講演録は,平成21年度発行の『成田市史研究』に掲載する予定です。
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館長紹介(国立歴史民俗博物館 研究者一覧より)
主な著作
『漆紙文書の研究』 吉川弘文館 1989年 ISBN:4-642-02232-5
『墨書土器の研究』 吉川弘文館 2000年 ISBN:4-642-02354-2
『古代地方木簡の研究』 吉川弘文館 2003年 ISBN:4-642-02380-1
以上は千葉県立図書館に所蔵あり。
『日本の歴史 2』(日本の原像) 平川南/著 小学館 2008年
『古代日本文字の来た道』 平川南/編 大修館書店 2005年