講師 吉田 新一氏 立教大学名誉教授(英米児童文学研究者)
開催日:2006(平成18)年6月22日(木)
吉田先生が子どもの本の世界に入るきっかけとなったのは,息子さんが3歳の時に『てぶくろ』(福音館書店)という絵本を繰り返し読み聞かせたことでした。
『てぶくろ』は,森の中に落ちていたてぶくろに大小様々な動物が次々に入り込み,やがて満員になってしまうというウクライナの民話で,画家ラチョフの色鮮やかな絵が美しく,日本でも40年以上読み継がれています。棲み家となったてぶくろは,新しい動物が加わるたびに,土台が築かれたり窓が出来たりと少しずつ変化して描かれていますが,これはストーリーに直接関係がないので,絵をよく見ないと見落としがちな部分です。この絵本に,吉田先生の息子さんは大変夢中になり,てぶくろの絵に何か新しい発見をすると,満面の笑みを浮かべて先生に報告したそうです。このような経験を通じて,先生は「絵本の絵を読む」ということの楽しさを知り,40歳を過ぎてから,本格的に子どもの本の世界に入ったということです。
講演では,『てぶくろ』を始め『おおきなかぶ』や『ピーターラビット』等のよく知られた絵本を題材に,絵本の絵には随所に画家の遊び心が表われていること,同じ話でも画家によって全く異なる雰囲気の絵本になることなどを,映像を用いながら説明していただきました。時には先生の軽妙洒脱なユーモアに笑いを誘われながら,2時間が短く感じられるほど楽しいお話を聞くことができました。
絵本の絵を読む楽しさを!
大人が絵本を読む時,とかく文章ばかりに気を取られることが多いのではないでしょうか。講演の中で吉田先生は,「大人の楽しみとして,絵を丹念に見てください。そうすれば,画家の工夫した部分や特徴が見えて来ます。ぜひ試してください。」と「絵を読む」ことを勧めておられました。大人もじっくりと絵を読んで,絵本の奥深さを堪能してみませんか?
講演に出てきた本
- 『てぶくろ』 エウゲーニー・M・ラチョフ/え 福音館書店 1995,1980年
- 『おおきなかぶ』 A.トルストイ/再話 福音館書店 1980年ほか
- 『ピーターラビットの絵本』ビアトリクス・ポター/さく・え 福音館書店
吉田新一氏の本
- 著書
- 『ピーターラビットの世界』 吉田新一/著 日本エディタースクール出版部 1994年
- 『絵本の魅力』 吉田新一/著 日本エディタースクール出版部 1984年
- 翻訳
- 『ランドルフ・コールデコットの生涯と作品』 ジョン・バンクストン/著 吉田新一/訳・解説 絵本の家 2006年
- 『オーラのたび』 ドーレア夫妻/作 吉田新一/訳 福音館書店 1983年
- 『トム・チット・トット』 ジェイコブズ/文 吉田新一/訳 ブッキング 2006年,小学館 1978年
- 『天才コオロギニューヨークへ』 ジョージ・セルデン/作 吉田新一/訳 あすなろ書房 2006年,学研 1989 1978年
(今回の講演は,「子どもゆめ基金」の協力と助成を受けて開催中の,おはなしボランティア養成講座「絵本とおはなし大好き講座」のプログラムの一部を,一般の方々にも聴講していただきました。)