今から100年前の1909(明治42)年12月21日に松本清張は生まれました。
清張は1992(平成4)年に82歳で亡くなるまで,実に4つの時代にまたがって生きました。特に昭和の時代とはその始まりから終わりまでを共に歩み,昭和を代表する作家の一人となったのです。
40歳を過ぎてからいわゆる遅咲きのデビューを果たしましたが,デビュー後は驚異的な仕事ぶりで,約1,000点にものぼる非常に多くの作品を残しました。
その領域は社会派ミステリーのみならず時代小説,古代史,事件や政治の裏側を追ったノンフィクションなど多岐に渡り,しかもそれぞれにおいてめざましい業績を残しました。
その執念とも言うべき旺盛な創作欲に驚嘆すると共に,知れば知るほどその奥深い世界のとりこになっていくことでしょう。
今回はそんな松本清張の著作群を,その人生の諸段階に合わせてご紹介します。この機会に氏の著作の森に分け入って,その豊かな作品世界を味わってみてください。
松本清張生誕100年
最終更新日 2012年10月30日
展示期間 : 11月から12月
展示場所 : 本館エントランス
- まずはじめに全体像を知るための本
- 生い立ちと前半生
- 作家としてのスタート
- 社会派ミステリーの確立
- 社会の“黒い霧”をあばく
- 現代史へ
- 古代史への視点
- 現代小説
- 時代小説
- 旅する作家
- 映像化作品の魅力
- 他の作家から見た清張
- 清張の創作世界
- 関連サイト
まずはじめに全体像を知るための本
宝島社 2009年
平凡社 2006年
松本清張生誕100年記念事業実行委員会 2009年
これらの本は、写真やイラストも多用して非常にわかりやすく、清張初心者の方にもおすすめです。
生い立ちと前半生
松本清張/著 河出書房新社 1980年 ほか
主に作家になる前までの半生を、清張自らが語っています。清張独特の語り口で読み進めるうち、まるで作者自身が自作の登場人物であるような気がしてきます。後の作品の萌芽をあちこちに伺い知ることができる非常に興味深い一作です。
北九州市立松本清張記念館/編集 北九州市立松本清張記念館 2007年
清張は19歳の時に印刷所の見習いとなりました。当時の印刷工の仕事内容や勤務先の様子、また清張作品中で描写された印刷所などが紹介されています。
北九州市立松本清張記念館/編集 北九州市立松本清張記念館 2002年
吉田満/著 九州人文化の会 1977年
31歳の時に清張は広告部意匠係の臨時嘱託として朝日新聞社北九州支社に採用されます。差別的待遇を受けるなど不本意なことも多かったようですが、この時の鬱屈がのちに創作活動を始めた際のバネにもなったようです。また、考古学への興味もこの頃に芽生えています。
北九州市立松本清張記念館/編集 北九州市立松本清張記念館 2004年
森史朗/著 文藝春秋 2008年
松本清張/著 文藝春秋 1986年 ほか
朝日新聞に採用後の33歳の時に清張は新兵というには遅い年齢での召集を受け、衛生兵となってのちに朝鮮へも渡りました。召集を受けたいきさつや従軍時の体験が、この『遠い接近』などの小説の基になっています。
作家としてのスタート
松本清張/著 新潮社 2003年 ほか
「週刊朝日」の懸賞小説で入選し、この作品が実質デビュー作となりました。作家人生第一歩は歴史小説で、短編ながらその後の清張作品のエッセンスが既に伺えます。直木賞候補にもなりました。
松本清張/著 新潮社 2004年 ほか
『西郷札』に続いてこの作品で芥川賞を受賞します。出世作となった今作は、評伝小説でした。この作品後しばらくして清張は東京に居を移し、やがて新聞社も辞めて作家生活に専念します。
社会派ミステリーの確立
松本清張/著 文藝春秋 2009年 ほか
『張り込み』『顔』などを発表した後に書いたこの“時刻表ミステリー”で、清張は社会派ミステリーの書き手として地位を確立することになりました。シリーズ作品がほぼない清張には珍しく、今作の刑事コンビはのちの『時間の習俗』にも再登場しています。
社会の“黒い霧”をあばく
松本清張/著 文藝春秋 1978年
未解決に終わった帝銀事件の背景に、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が関与しているとの推理を展開。この小説を書いたことが、のちの『日本の黒い霧』執筆へとつながりました。
松本清張/著 文藝春秋 2004年 ほか
事件の裏側に潜む黒幕や利権関係について、独自の調査と推理で迫ったノンフィクションの連作で、大胆な仮説を盛り込んで“黒い霧”という言葉を流行らせた意欲作です。下山事件をはじめとして12の事件を扱っています。
現代史へ
松本清張/著 文藝春秋 2005年 ほか
松本清張/著 文藝春秋 2009年
自らのノンフィクションの手法を用いて、昭和を代表する事件を追い昭和史の裏側と本質に迫った大作。特に二・二六事件の考察に力を入れています。後にこの『昭和史発掘』を題材にした対談『対談昭和史発掘』も出版しました。
古代史への視点
松本清張/著 文藝春秋 2007年 ほか
この作品が古代史ミステリーの第一作となりました。この著作をきっかけとして、清張は『古代史疑』を執筆しました。
松本清張/著 文藝春秋 1978年
当時のいわゆる“邪馬台国ブーム”のきっかけにもなった1冊。清張の古代史論の出発点であり、その歴史観を知るための必読書となっています。その他にも『清張通史』や『遊古疑考』など、古代史関係の本を多数書いています。
松本清張/著 文藝春秋 2009年 ほか
拝火教(ゾロアスター教)の日本への伝来について、大胆に仮定したミステリー。
現代小説
松本清張/著 新潮社 2005年 ほか
松本清張/著 新潮社 2005年 ほか
松本清張/著 新潮社 2008年 ほか
“悪女”の生きざまを通じて、日本社会の裏側を描く作品群。最近もドラマ化されて話題になりました。男性主人公だと、『夜光の階段』などがあります。
時代小説
松本清張/著 文藝春秋 1996年 ほか
松本清張/著 文藝春秋 2004年 ほか
中島誠/著 現代書館 2003年
時代物にも、社会派清張の人間観・社会観が反映されています。中島誠氏の評論とあわせてどうぞ。
旅する作家
松本清張/著 日本放送出版協会 2000年
松本清張/著 日本放送出版協会 1979年 ほか
松本清張/著 新潮社 1983年
取材と趣味を兼ねて、国内外いろいろな場所を旅した紀行を残しています。
映像化作品の魅力
林悦子/著 ワイズ出版 2001年
清張の作品は数多く映像化されましたが、清張は自ら映画化したいという夢も持っていました。清張が設立した映像プロダクション関係者による興味深い裏話が 書かれています。2009年12月現在当館所蔵のDVDには『砂の器』『ゼロの焦点』『点と線』、ビデオでは『天城越え』『疑惑』『ゼロの焦点』などがあ りますのでご覧ください。また『西郷札』『或る「小倉日記」伝』などの朗読CDもありますので、よければ聴いてみてください。
他の作家から見た清張
梓林太郎/著 祥伝社 2009年
生前から交流の深かった梓林太郎氏が、その素顔を振り返っています。清張は同時代、そして後の時代の作家にも、多大な影響を与えました。
阿刀田高/著 朝日新聞出版 2009年
作家阿刀田氏が大のファンとして清張の魅力を分析し、その面白さの秘密を伝えます。
半藤一利/著 日本放送出版協会 2002年
編集者という立場から昭和の二大作家と関わった著者が、両者を対比しつつ裏話をまじえて思い出を語ります。
清張の創作世界
江戸川乱歩・松本清張/共編 光文社 2005年
江戸川乱歩と共に編集したこの本で、自分の創作ノートの一部を公開しています。
志村有弘/共編 勉誠出版 2008年
郷原宏/著 角川学芸出版 2005年
これらの事典はそれぞれの視点から清張作品に切り口を与えており、読み物としても楽しめるものになっています。
関連サイト
松本清張の生誕百年を記念したページです。各種記念イベントの情報や、清張ゆかりの地の紹介などが載っています。『松本清張生誕100年記念事業実行委員会』作成。
北九州市立松本清張記念館のページです。清張とゆかりの深い小倉に、1998年に開館しました。『昭和史発掘』などを担当した元編集者である藤井康栄さん が館長をされています。同記念館で多数編集された展覧会図録パンフレットは薄いながらも図版も多く、清張の創作背景の理解を深めるのに非常に役に立ちま す。