解題
社寺への奉納相撲は、かつては各地で盛んに行われていた。今も行われているところはあるが少なくなった。この写真は、1954(昭和29)年8月17日、滑川の龍正院で行われていたものである。同寺と地元の方の話によると、相撲は次のように行われていた。地元の「花車」という相撲取り経験者や神楽を舞う若者が中心になって、前日までに4本柱にしめ縄を張り巡らせ、土俵を整えるなど準備をする。当日(16日、後年17日)の昼から夕方にかけて、地元と近郷からの小学1年生の子どもから大人までが参加した。前半は子供たち、後半は大人たちの取り組みがあり、3番勝負で勝ち抜いた人には、寄付で集められた賞品が出た。行司は相撲の経験者が務め、写真で見られるようにそれなりの装束を身に付け、身軽に立ち回り手際よく勝負を裁いた。当時は、現在と違って娯楽も少なかったため、大人気で土俵の周囲は5重、6重の見物人で埋め尽くされ、大声援のもと、たいへん賑わった。相撲が行われた場所は、仁王門と常念仏堂(県道の敷地となり現在はない)の間あたりといわれ、常念仏堂がなくなってからは、仁王門の右側奥(大きなシイの木と仁王門の間あたり)へ移り、1965(昭和40)年ころまでは続いていた。写真の後者の場所と推定できる。なお、滑川の近隣の奉納相撲は、名古屋、名木、高、成井、小野などの地区でも行われていた。近年、名古屋・小御門神社での相撲が復活し、秋季例祭は10月4日に奉納子ども相撲が行われている。
(島田七夫 事務局にて一部編集)