解題
浚渫(しゅんせつ)作業の場所は特定できないが、滑川周辺と推測される。写真の浚渫船(しゅんせつせん)「下総号」は、1948(昭和23)年度に建設省(現国土交通省)が購入したもので、1956(昭和31)年度に利根川下流事務所に移管され、2001(平成13)年度まで浚渫工事に使用されていた。利根川下流域の土地改良工事や利根川の浚渫に大いに活躍していた。当初は1,300V位の電動式で、タグボートによって曳かれ移動する非航式ポンプ浚渫船であった。電動式とは電線を陸上から引き入れて動力とする方式のことである。1980(昭和60)年度から1,200psのディーゼルエンジンによる浚渫船に変わった。水面から10mまでの深さを1時間当たり約360立方メートル掘り起こし、最大で3,000m先まで送り出すことができた。船の長さは38.4m、幅9.5m、高さ3.2m、船体重量668t、吃水2.2m。主ポンプの能力は、揚程42m、排水量3,300立方メートル/h、ポンプ回転数367rpm、インペラー4枚翼1,500mmである。カッター、スパッド等の各種作業装置は、720psの船内発電機による電力で動かした。この下総号は、埋め立て工事の減少などによって、2010(平成20)年度に売り払い(廃船)になり、今はその姿を見ることはできない。現在、利根川下流河川事務所の浚渫船は、「利根号」1艘のみとなったが、利根川沿いの「道の駅さわら」近くのドックに繋留されているので岸からその大きさなどを実感することができる。今はない「下総号」を想像することができるだろう。浚渫船は、河川、港湾、運河などの底面にたまった土や泥を掘り起こしたり、浚(さら)って取り去る作業船である。河川では、上流からの堆積土砂で川が浅くなり流量が確保できなくなることから、治水のために浚渫が行われる。浚渫する場所の土質、水深、地形などで船が使い分けられているが、利根川下流域のものは、ポンプ浚渫船である。浚渫された土砂は主に埋め立て工事に使われるが、川砂はコンクリートの骨材などにもリサイクルされている。
(島田七夫)